古い家具を研磨機を使って再生する佐藤さん=佐賀市八戸の「イー家具屋」



 佐賀市八戸の国道沿いの塗装業「信栄商会」2階にある小さな事務所。パソコン数台、修理中の家具部品が雑然と並び、一見すると何の商売か分からない。経営する佐藤和孝さん(42)=同市=は「家具の修理や販売、パソコン講習をする『暮らしの便利屋』です」と説明してくれた。
 
 2004年10月に開業。パソコンや家具業界のネットワークを使い、良いサービスを提供するという思いを込めて「イー家具屋」と名付けた。パソコン講習では顧客宅を訪ねて、電源の入れ方からソフトの使い方を中高年に丁寧に教える。家具部門では修理、改造、販売を受け付け、手に余る場合は福岡県大川市の家具職人に依頼する。
 
 

■ネットで受注

 修理・改造の受注はインターネットを通じてがほとんど。「嫁入り道具のテーブルをきれいに」「祖母の古いたんすを元通りにしたい」「衣装ダンスを半分のサイズに」−。種々雑多な依頼が福岡、佐賀市を中心に東京からも来る。
 
 佐藤さんは「1つひとつの依頼の向こうにドラマがあり、顧客の思いを大切にしたい。無理な注文には苦労するが、倒産したあのころに比べれば…」としみじみと話した。

 父親から受け継ぎ、佐藤家で最後に残った店を経営するという重圧。親類や知人からの借金はかさみ、「事業継続のために生命保険で賄うしかない」と思い詰めた。だが当時1歳の長男の顔が浮かび、「父を亡くした家庭、見通しの立たない事業しか子どもに残せない」と思いとどまった。
 01年8月、佐賀市で雑貨店を経営する義理の母に気持ちを吐き出した。出てきた言葉は「もういいよ」。肩の力が抜けた。妻、母、叔母に話すと「ここまでよく頑張ったね」とねぎらってくれた。そして手形を決済できず、1カ月後に倒産した。
 
 当面の生活は義母、妻が支えてくれ、ハローワークに通い、インターネットで必死に仕事を探した。「家具業界以外の仕事を見つけたかった。社長だったから何でもできると思っていた」と佐藤さん。しかし10社から不採用通知が届き「プライドはずたずたになった」

 

■再起の好機

 
ユーモアな語り口で参加者を沸かせながら、パソコン操作を教える佐藤さん=佐賀市役所

 再起のチャンスは03年4月に訪れる。佐賀市が、中心街の空き店舗を商業者育成のために貸す「チャレンジショップ事業」の参加者を募集した。佐藤さんは温めていたプランを面接で熱っぽく話した。パソコン講習、家具修理で高齢者の生活を支援する仕事。1人暮らしの高齢者が、電球、家具の修理を親族に依頼できずに困っている現状を説明した。見事採用された。
 
 格安の家賃、無料の広告費。商売の厳しさを知る佐藤さんにとって「天の助け」だった。その年の6月から1年3カ月間の創業体験で着実に固定客を付けた。中年層のパソコン講習需要もあるなどビジネスプランの見直しにもつながった。独立を考えていた時に、父の知り合いだった信栄商会から「格安で事務所を貸すよ」と申し出があり、厚意に甘えた。

 今の夢は、家具修理サービスをシステム化すること。大手家具メーカーは人件費などの採算面から製造を中心とし、修理を重視してこなかった。佐藤さんは「家具職人の仕事を規格品の製造から修理・改造に広げたい」と意気込む。

 「倒産でたくさんの顧客、関係者に迷惑をかけた。だからこそ皆さんの恩に報いたい」。ホームページの掲示板に寄せられた修理依頼に丁寧に返信を書きつつ、きょうも顧客を回る。

 

◇チャレンジショップ事業◇

 2000年度から始まった佐賀市のチャレンジショップ事業。04年度までに計50人が創業体験をしたが、独立に結びついたのはわずか26人となっている。
 このうち佐賀市で出店したのは18人。同市商工振興課は独立の少なさについて「ショップ出店時の家賃が安すぎて、実際の商売の厳しさに耐えられないのが一因」と分析する。05年度から家賃を相場並みに設定し、独立時にその一部を開業資金として返還する。
 05年度の創業体験者は四人。輸入自転車店、和柄の洋服店、アジア雑貨店など個性的な店を出した。事業終了時の10月末以降に全員が同市で独立開業する予定。同課は「売り上げが想定より伸びている。それぞれの店主が主力商品の入れ替え、集客イベントの企画など自発的に動いたことも大きい」と話した。