大賞に井上さん(川崎市)
 第13回九州さが大衆文学賞は大賞の笹沢左保賞に神奈川県川崎市の井上順一さん(73)の「華吉屋縁起(かきつやえんぎ)」が決まった。佳作には横浜市の水城亮さん(38)=本名・竹中亮=の「瞳」、県内最優秀の奨励賞には佐賀市木原の西村しず代さん(76)=本名・西村倭代=の「海峡に陽は昇る」が選ばれた。

 佐賀市で開かれた最終選考会では、作家の森村誠一、夏樹静子、北方謙三の各氏が候補に残った6編を審査した。

 「華吉屋縁起」は、徳川吉宗時代の長崎を舞台に、父を知らずに育った娘、お絹と料理人の仁吉が結ばれるまでを、将軍家に献上される「2頭の象」や隠れキリシタンなどを絡ませながら描いた。「小説のたくらみが1番ある」(森村氏)「人物配置が巧みで、物語にも展開がある」(夏樹氏)「情愛の切なさが書かれている」(北方氏)と高く評価された。

 もう1編の佳作に選ばれた米・カリフォルニア州在住の馬場信浩さん(63)は受賞を辞退した。

 九州さが大衆文学賞(主催=九州電力、佐賀銀行、ミサワホーム佐賀、佐賀新聞社でつくる同賞委員会▽後援=佐賀県、佐賀市)は1993年、作家の故笹沢左保氏の提唱で新人作家発掘を目的に始まった。

九州さが大衆文学賞贈呈式
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 第13回九州さが大衆文学賞(九州電力、佐賀銀行、ミサワホーム佐賀、佐賀新聞社でつくる同賞委員会主催、県、佐賀市後援)の贈呈式が28日、佐賀市のホテルニューオータニ佐賀であった。「華吉屋縁起(かきつやえんぎ)」で大賞の笹沢左保賞に輝いた井上順一さん(73)=神奈川県川崎市=ら3人に正賞と賞金が贈られた。


北方謙三氏
森村誠一氏
夏樹静子氏
選考経過はこちら

第13回九州さが大衆文学賞受賞者
大賞・笹沢佐保賞
井上 順一さん(73) 「華吉屋縁起」
「華吉屋縁起」を読む
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 いのうえ・じゅんいち 1932年中国東北部撫順市生まれ。東北大卒。建設会社勤務の傍ら87年から小説講座に通い、現在、山村正夫記念小説講座に在籍。「泥の谷から」で、94年度労働者文学賞を受賞。

 3回目の挑戦。前の2回はともに1次通過どまり。この年齢だし、これが最後の機会という思いでした。「うれしい」を2乗、3乗したいほど。舞い上がっている。
 小説は会社を定年退職する数年前から書き始め、15年ほど。現代物は無理なので、最近は江戸物を書いている。今回は長崎を舞台にした。同窓会のついでに長崎を訪ね、雰囲気を出すことに役立った。ただ、長崎弁には苦労した。
 この受賞で大きな元気をもらった。今後も頑張って書いていきたい。
 あらすじ
 享保13年6月、長崎港の大波止に将軍吉宗に献上される2頭の象が陸揚げされた。象が飼われる唐人屋敷までの道筋、見物の列にいたお絹は、「病気の祖母房に」ともらったカステラを象に取られ、押し倒された。そのお絹を助けた仁吉は、お絹が去った後、落ちていたお守り袋を拾う。
 お絹はオランダ商館長(カピタン)と亡き遊女初瀬との間に生まれ、父の名も顔も知らない。翌日仁吉はお絹を連れ、カステラの償いをしろと唐人屋敷に行き、唐通事堀信之助に会う。お絹は象をハナ吉、おハナと勝手に名付ける。仁吉はそこで出会った唐人とひそかに海産物取引を始めるが、手玉にとられ多額の借銭が残る。
 盂蘭盆(うらぼん)の夜、死に面した房の、臨終の秘蹟(ひせき)を受けたいという願いに、お絹は隠れキリシタンのじいさまを捜しに行く。お絹の父親の名を告げかけたまま房は死んだ。
 薬代などの借銭のため、お絹は母親と同じオランダ商館行きの遊女になり、同じ初瀬を名乗る。
 郭(くるわ)に入る前日、別れを告げに行った信之助には会えず、牝(めす)象が死んだことを知らされる。
 借銭の取り立てに追われる仁吉はオランダ商館に忍び入って捕まるが、初瀬の名を出すと料理人頭彦蔵の態度が変わり、下働きとして雇われる。
 享保14年正月4日、宗門改めの絵踏みの日、お絹は亡き祖母の祈る声を耳にして踏むのをためらい、隠れキリシタンと疑われる。町方に追われ唐人屋敷に逃げこんだお絹は、象使いの安南人にかくまわれる。
 3月13日、桜吹雪の中を献上の象がいよいよ江戸へ出発する日。仁吉は彦蔵から1通の文を示される。そこに書かれていたのは−。
佳作
写真 水城 亮さん(38) 「瞳」
みずき・りょう 本名・竹中亮。1967年静岡県生まれ。中央大学法学部卒。横浜市役所勤務。5、6年前から推理小説を中心に執筆している。
 年に2、3作、公募文学賞に応募している。賞はもちろん、最終選考まで残ったのも初めてで、とてもうれしく、感激している。
 応募作のストーリーは、すぐ頭に浮かんだ。だけど、実際に文章にするのには手こずった。推理小説というより、やや普通の小説っぽくなった気がして不安だった。再びチャレンジして、大賞を目指したい。

奨励賞
写真 西村しず代さん(76) 「海峡に陽は昇る」
 にしむら・しずよ 1930年、長崎県対馬市生まれ。対馬高等女学校在学中に短歌、俳句を始める。77年、佐世保市であった作家の井上光晴の文学伝習所に参加。85年、佐賀文学伝習所を開くと同時に文学同人誌「佐賀文学」刊行。2005年まで代表を務めた。
  どんなときもくじけずに生きる「人間の希望」を書くことが長年の夢。評価していただき、うれしさと戸惑いを感じている。大きな賞を受けたのは初めて。長く務めた同人誌「佐賀文学」の代表を昨年交代したことで、肩の力が抜けて創作に取り組めるようになったように思う。年齢のことは忘れて、1年生になったつもりで恐れずひるまず書き続けたい。

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