九州さが大衆文学賞OBの近況と抱負 〜佐賀から中央文壇へ〜
05年1月3日(火)18面


 作家の故笹沢左保さんの発案で1993年スタートした「九州さが大衆文学賞」(九州電力、佐賀銀行、ミサワホーム佐賀、佐賀新聞社でつくる同賞委員会主催、佐賀県、佐賀市後援、佐電工、サンクスジャパン、村岡総本舗協賛)。大賞受賞後に新潮ミステリー倶楽部賞を受賞した永井するみさん(東京都)、サントリーミステリー大賞の海月ルイさん(愛知県)をはじめ、中央文壇に活躍の場を移す受賞者が相次ぐ。新人作家の発掘という文学賞設立時の期待通り、佐賀から「創作の海」にこぎ出した6人の近況や抱負を、選考委員長の森村誠一さんのエールとともに紹介する。
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 九州さが大衆文学賞は森村さんと夏樹静子さん、北方謙三さんが選考委員を務め、第13回となる今回は3月下旬に受賞者を発表する。

永井するみさん〔95年度大賞〕 今年も3冊出版予定
 昨年は文庫を5冊刊行。さが大衆文学賞受賞作の「マリーゴールド」がテレビドラマ化されるなど、実りを実感する1年だった。今年も書き下ろしなど3冊の出版予定があり、充実した日々が続きそうだ。授賞式で笹沢左保さんから「自分の思うように書きなさい」。この言葉を胸に「ミステリーだけでなく恋愛ものなど幅広く、質の高い作品をつくりたい」。プロ作家の自信と誇りも見えた。(東京都江東区=写真は小学館提供)

海月 ルイさん〔97年度大賞〕 京都舞台の長編執筆
 さが大衆文学賞の賞金で作家山村正夫さんの小説教室に入門した。「賞金は旅費と授業料で消えてしまった」と笑い、サントリーミステリー大賞を受賞しても、「大衆文学賞が私の原点」。現在は京都・祇園を舞台にした長編を執筆中。地元愛知県のテレビ局の情報番組でレギュラーを務め、講演にも積極的に取り組む。「活動の場を広げ、多くの人に小説の面白さを伝えたい」。(愛知県阿久比町)

山本 甲士さん〔95年度奨励賞〕 自分に枠はめぬよう
 昨年、「とげ」「ぱちもん」「ALWAYS 三丁目の夕日」を刊行。「書くことでさまざまな世界を旅することができた」。現在は別冊文藝春秋に「わらの人」という連作短編集を執筆、書き下ろしの準備にも入っている。「自分に枠をはめず、面白いと感じたものを形にしてとらえどころのない物書きを目指す」と言い、この文学賞には「今後も佐賀が楽しい物語の発信地として発展することを祈っています」と期待を寄せた。(佐賀市)

今井絵美子さん〔02年度大賞〕 短編集の続編準備中
 受賞作の「小日向源伍の終わらない夏」と同じ瀬戸内の架空の小藩の下級武士を描き、昨年出版した連作短編集「鷺の墓」が好評。出版社から続編の依頼があり、準備を進める。津山藩の一揆を題材にした長編も仕上げの段階。「大衆文学賞がきっかけとなり、道が開けた。これからもいい作品を書くことだけを考え、走り続けます」。声にも、元気と勢いがみなぎる。(広島県福山市)

植松三十里さん〔01年度佳作〕 幕末の海軍を追究へ
 「何をどう書けばいいのか迷ってばかり。暗中模索の不安だらけ」と控えめだが、昨年は長編「黍(きび)の花揺れる」に続き、年末には民放の新春ドラマ「里見八犬伝」のノベライズを出すなど地歩を固める。これからライフワークとなりそうなのが幕末の海軍。いま、海軍総裁を主人公にした長編の構想を練る。「読者のみなさんに、名前で選んでもらえる作家が目標です」。(東京都武蔵野市)

篠 綾子さん〔04年度佳作〕 一歩一歩頑張るだけ
 昨年3月の佳作受賞後、4月と10月に長編を出版するなど、目まぐるしい1年となった。「1年前には思ってもみなかったことが次々に。子どものころからの夢がかない、忘れられない年になりました」。高校の国語教師の傍ら、平安時代の女性の生き方を描く長編に向け、取材を始めた。「完成は早くても来年になりそう。一歩一歩頑張るしかありません」。弾む声に充実の日々を感じさせた。(埼玉県春日部市)
森村誠一・選考委員長−独特の個性、全国が注目−存在価値さらにアップを

 笹沢左保氏の提唱によって、1993年に創設された「九州さが大衆文学賞」は2002年10月、笹沢氏の逝去後、同氏の業績を記念し、大賞を「笹沢左保賞」として、2005年度をもって13回目を迎えた。この間、永井するみ氏、海月ルイ氏、今井絵美子氏、植松三十里氏、山本甲士氏と歴代受賞者の瞠目(どうもく)的な活躍によって、本賞の存在価値は確定したといえよう。
 
 創設時に笹沢氏から声をかけられ、夏樹静子氏と共に選考に携わり、笹沢氏の逝去後、北方謙三氏をその後任に迎えた本賞は、いまは数ある文芸賞の中で独特の個性をもった文芸賞として注目され、全国から優秀な才能の応募が集まり、歴史と伝統ができつつある。

 本賞の特色は、まず賞名の示すごとく佐賀県を拠点として全国、また海外からも隠れた才能を募り、2、プロ作家の登竜門とし、3、大衆文芸に新風を吹き込む大衆文学作家の供給源とすることにある。大衆文芸と銘打ってはいるが、文芸に線引きはなく、推理、時代、歴史、社会、SF、冒険、ホラー、純文等、ジャンルを問わず、門戸を開放している。

 文芸賞の存続価値はひとえに受賞者の活躍にある。その意味においても、いまや本賞は創設の精神を十分に実現し、OB受賞作家、またこれから受賞するであろう有能な新人の活躍によって、今後ますますその存在価値を増すものと期待している。
 


 
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