最後の打球が中堅・甲斐裕也選手のグラブに収まると、二千人超のアルプス席は大歓声で揺れた。全国高校野球選手権大会第7日の十三日、鳥栖商は愛工大名電高(愛知)に2―1で競り勝ち、初勝利を手にした。「全員で攻め、全員で守る鳥栖商野球の真骨頂だ」。強豪相手に演じた会心のゲームにスタンドは歓喜の渦に包まれた。
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相手は強力打線が売り物だけに、重野倫基投手の一球一球に視線が注がれる。序盤から無安打。父親の正敏さん(49)は「最高の滑り出し。春の九州大会の経験が身になっている。堂々としている」と大きくうなずく。
三回表、主将の池上昌太選手が先制の口火を切る二塁打。父親の昌高さん(41)は「『最高の親孝行をする』という言葉を信じていたが。本当にやってくれた」と興奮気味にメガホンを打ち鳴らす。続く中島正選手が二点目の右前打。母親の恵美子さんは「県大会では不振で悩んでいるみたいだった。本番で見事に四番の仕事をしてくれて良かった」。総立ちのスタンドから安心したように塁上のわが子を見守る。
控え部員も気持ちは一つ。二年生の宮原篤史選手は県大会直後に母親(44)を亡くした。「甲子園で絶対に勝つと誓ってきた。やってくれるはず」。PROGRESS(前進)と書いたタオルを掲げて声を振り絞る。
七回裏、無死満塁のピンチに、静まり返っていたスタンドから「重野」コール。一点で切り抜けると、安どと称賛、地鳴りのような歓声が響いた。
十年前、同じ舞台で実力を出せないまま敗退したOBの木谷泰士さん(27)は「雰囲気にのまれずに楽しんでくれればと思っていたが。自分たちの借りをよくぞ返してくれた」と勝利の校歌に感慨深げ。真崎雅隆校長は「大舞台で伸び伸びやってくれた。もう言うことはない」と顔を紅潮させ、スタンド前に駆けてきたナインを拍手で迎えた。
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〈留守部隊も喜びの声〉
「やったー、勝ったぞ」「感激、感激」。鳥栖商では、留守を預かる東島敏隆教頭ら教職員と、部活動で甲子園に行けなかった生徒七十人が大型スクリーンや十台のテレビ画面にくぎ付け。勝利の瞬間、一斉に立ち上がり、喜びの声を上げた。
三回、2点先制すると、教室は拍手と歓声に包まれ「いけるぞ」「もう1点」の声が飛んだ。七回の無死満塁の大ピンチには「重野さん、頑張って」と女子生徒が祈る。緊張で画面を見られないと外に出た生徒は、漏れてくる音声に「もう勝ちますよね」。
二年生の江越恵美さん(17)は「最後まではらはらどきどき。縦じまのユニホーム姿の選手が大きく見えた。甲子園に流れた校歌は最高」と感激、瞳を潤ませていた。
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