■ハイライト
五回表一死三塁。三走が一ゴロで本塁憤死した。チャンスを失いかけた富山商は、3番山元が左前打で追撃態勢を立て直す。続く金田が右越えに同点三塁打。鳥栖商・重野の投球数は80球を超え、シンでとらえられていた。流れは富山商に傾きかけていた。それでも鳥栖商は「自分たちの野球」を変えず、踏ん張った。
六回の攻防が明暗を分ける。表の富山商。先頭打者が左前打で出塁。次打者のバントは2ストライク後のプレッシャーからか重野の正面に転がり、一走は二塁で刺された。チャンスが消えた。
その裏。鳥栖商も先頭の中島正が中前打。富山商・長江の暴投で無死二塁。堀江監督はベンチで「向こうがくれたチャンス。逃さないぞ」。ナインにそう伝えた。
鳥栖商はここでも自分たちのスタイルを貫いた。5番永家は続く3球目を三塁側にバントし、中島正を三塁に送る。球威はありながら、低めの制球に不安を持つ長江にじわじわプレッシャーを与えた。このひとつの堅実なプレーが、富岡の四球、重野の幸運な勝ち越し内野安打、そして日高のだめ押し2点適時打につながった。流れを呼び戻し、堀江監督は、勝利を確信した。
試合後、富山商・沢田監督は「四球や失策に乗じたり、得点圏にきちっと送るなど自分たちがやりたいことを、すべてやられた」。視線を落とす敵将とは対照的に、堀江監督は「みんなが野球を楽しんでいる。ここ一番の集中力もすごい」。一人ひとりが戦況、自分の役割を考えたプレーを当たり前に。鳥栖商ナインが甲子園を栄養≠ノして、一戦ごとにたくましくなっている。
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■ヒーロー
〈恐怖の9番%高3打点〉
「みんなが作ってくれたチャンス。絶対無駄にしない」。六回一死満塁。9番日高陽介は打席に入る前、気合を入れた。1点を勝ち越していても、流れを自分で止めたくなかった。
簡単に2ストライクを取られたが、二回に適時打を放ち、自信もあった。きわどいコースの直球をしっかり見極めた。ボールがよく見えていた。2―2からの5球目。内角高めのスライダーを振り抜くと、鋭いライナーが左前に抜けた。鳥栖商の勝利を手繰り寄せる2点タイムリーとなった。
県大会準決勝、決勝で無安打。悔しい思いをした。「このままではいけない」。大阪に入ってから、県大会決勝で対戦した佐賀商の1番宮崎洋平選手をヒントに、苦手の内角球克服を狙ってオープンスタンスに変えた。体で覚えるために、宿舎屋上で夜遅くまで黙々とバットを振った。
初戦と合わせ6打数4安打。「チャンスによく回ってくるし、9番という打順に誇りをもってやっています」と日高。大会前、「チャンスメークに徹したい」と話していた小柄なラストバッターが鳥栖商を8強に導いた。(古川公)
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〈重野幸運¥氓ソ越し打〉
「コントロールが悪かった。きょうは70点です」。試合後、エース重野倫基は振り返った。
初戦から中5日。雨の影響もあり、満足な投げ込みはできないまま臨んだ。高めに抜ける球が多く、球数も多くなった。甘いコースは富山商打線にシンでとらえられ、五回は2つの長打などで同点に追いつかれた。
しかし、投球は不調でもバットで自らを救った。六回一死二、三塁から、この日3本目となる勝ち越し安打を放った。
バッティングで呼び込んだ勢いを、終盤の投球につなげた。直球に切れが戻り、丁寧にコースに投げ分けるいつもの投球がよみがえった。七回以降の三回は一人の走者も出さなかった。「最後は気持ちだけだった。(準々決勝は)どんなチームと当たっても、要所で踏ん張れるような投球をしたい」。重野は球場を去るときには、「甲子園2勝」から2日後の戦いに気持ちを移していた。
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〈4番中島正、先制適時打〉
鳥栖商の主砲中島正が、富山商の本格派右腕・長江から先制適時打を奪った。
長江が制球を乱しての一死二、三塁。1―1からの3球目、低めに落ちる変化球を逃さなかった。「スライダーだったと思う。狙い球は特になかったけど、甘い球なら何でもいこうと思った」。気持ちで右前に運んだ。
初戦で2安打1打点。その後の練習でも快音を響かせていた。だが、中島正は「スイングが大きくなっている。もっとコンパクトにいかないと」。長江の140`の速球を想定した、右狙いの打撃が結果につながった。
この日も2安打で勝ち越しのホームを踏んだ。だが三振も2つ。中島正は「体が開いてしまった」と反省し、「次の試合はもっと気を引き締めていく」。4番打者がチームバッティングに徹し、ナインをリードする。
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〈選手は責められない〉
鳥栖商の勝ち越し点は幸運な一打。同点の六回一死二、三塁で重野が三塁線沿いに高いバウンドの打球を放つと、捕球した三塁手はどこにも投げられず、内野安打となった。
三塁手が捕球しなければ、ファウルになっていた可能性が高かった。重野は「切れると思った。ラッキーだった」とにんまり。富山商の沢田監督は「サードやキャッチャーは責められない」と無念の面持ちだった。
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〈制球が定まらず〉
富山商の長江は終始消え入りそうな声だった。「立ち上がりがまた良くなくて…」
一回に3四球を与えた初戦と同様、この試合も一回にいきなり2連続四球と制球が定まらず、2点を先制された。三回に3者連続三振を奪うなど持ち直したが、六回にまた四球が絡んで3点を失った。
納得のいかない投球に報道陣の質問にも首を何度もかしげるばかり。将来を期待される速球投手は「甲子園で学んだことを次に生かしたい」とうつむきながら話した。
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▽鳥栖商・重野投手(2試合連続の完投)「(最初は)完封を狙って、力が入りすぎた。自分が引っ張っていかなければ、と切り替えて投げた」
▽鳥栖商・富岡捕手(重野に)「球の勢いは初戦(対愛工大名電)に比べてなかったが、ピンチで落ち着いていた」
▽富山商・沢田監督(ベスト8ならず)「勝負を分けたのはやはり六回でしょう。内野安打にしてしまったが守備陣は責められない」
▽富山商・杉本三塁手(六回の内野安打に)「キャッチャーとランナーが重なって投げられなかった」
▽富山商・金田中堅手(五回に一度は追いつく2点三塁打)「走者をかえすことを心掛けた。あこがれの舞台でプレーできてうれしかった」
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