鳥栖商の重野倫基投手がマウンドでジャンプした勝利の瞬間、2000人が声援を送り続けたスタンドの興奮も最高潮に達した。夏の甲子園大会第11日の十九日、富山商にいったん追いつかれながら、もぎ取った県勢3度目のベスト8。あきらめず、1戦ごと大きく成長する鳥栖商ナインに、アルプススタンドは拍手が鳴りやまなかった。
----------------------------------------
好投手同士の対戦。初回一死三塁のピンチを脱した裏の攻撃で、中島正選手が右前に先制打を放つ。母親の恵美子さんは「これに安心しないで頑張って」と祈るように見つめた。
二回にも追加点を挙げ、攻撃のリズムが整い始める。宿舎でも選手の生活を支えているマネジャーの川久保祐子さんは「伸び伸びやっている。いい調子」と手応え。
五回表、相手打線に捕まり同点に。ため息、落胆、嫌なムードが漂う。しかし、逃げそうになる流れを吹奏楽部の演奏が引き寄せていく。選手への応援曲≠ヘ一人ひとり別の曲だ。
「好きな曲で気分を乗せたい」と甲子園入りの二日前、希望を聞いた。選手が指定してきた曲は「リンダリンダ」や「狙いうち」などリズムの良い曲ばかり。徳永博子部長は「選手の輝きに負けない演奏でもり立てます」
吹奏楽部のリズムに乗って六回、日高陽介選手の適時打などで3点を積む。父親の一治さん(48)は「甲子園に連れてきてくれた上に、打ってくれた。最高の親孝行」と誇らしげに見つめた。
九回。「T・O・S・U・鳥栖」の大合唱の中、重野投手の最後の球がキャッチャーミットに納まる。真崎雅隆校長は「今日の試合は百点満点以上」と拍手を送った。
九年前の優勝校佐賀商監督で、現在、日本高野連本部委員として大会を支える田中公士さん(62)は「投打のバランスよく生き生きとプレーしているところが(当時の佐賀商と)重なる。甲子園が彼らを成長させている」と県代表の躍進を喜んだ。
----------------------------------------
〈九千部園児も応援〉
序盤から鳥栖商の押せ押せムードに、鳥栖商の多目的教室は拍手と歓声に包まれた。大型スクリーンや十台のテレビの前には生徒六十人のほか、同校と交流を続ける九千部学園(糸山忠義園長)の園児六十人も陣取った。
「いけるぞ」「もう1点」の声が飛んだが、五回に長打で同点にされると重苦しいムード。その直後、連打で3点を奪うと「これで勝てる」「8強だ」。試合終了と同時に全員が立ち上がり、手を取り合って喜んでいた。
この日は、第一回の就職校内選考会を予定。応援の生徒も就職希望の三年生が多く、高橋樹里余さん(18)は「甲子園に行きたかったが、選考会もあったし断念した。ナインの頑張りで逆に励まされた。準々決勝は絶対に甲子園で応援したい」と話した。
|