四回一死三塁。鳥栖商の先発・城本貴大はアンダーシャツで顔をぬぐい、マウンドを降りた。「後は任せろ」。エース重野倫基が声をかけた。城本は「申し訳なくて…」。涙が止まらなかった。
堀江監督が城本に先発を言い渡したのは大阪市内の宿舎を出発する直前だった。堀江監督は「どんな相手にもうちのスタイルは崩さない」と言い続けてきた。だが、大阪入りして調子を上げる城本への期待感があった。練習中のブルペン、エースの横で「きっと出番がある」と、黙々と投げ込む城本の胸の内を監督はくみ取っていた。
出だしは好調だった。落差の大きいカーブでカウントをかせぎ、高めの直球で常総打線を詰まらせた。二回までパーフェクト。すべてフライで打ち取った。
しかし、先取点を挙げた直後の三回裏、先頭打者に四球を与えてから投球リズムが狂い出す。ボークでさらに動揺し、「自分を見失った」。送りバントの打球が手につかず、スクイズと左中間三塁打で逆転を許した。四回も先頭打者に二塁打。一巡した常総打線は甘い球を逃してはくれなかった。
新チーム結成時はエース。昨年11月に右肩を痛めた。6カ月間、投球はおろか、ボールを握ることさえできなかった。医者からは「次に故障したら、もう野球はできなくなる」と言われた。しかしリハビリに耐え、徹底的に走り込んだ。「野球を続けたい」「甲子園に行きたい」が支えだった。
「よく頑張ったよ」。試合後、うずくまる城本に重野が声をかけた。「すばらしい仲間たちと、ここまで野球ができてよかった」。城本の目から、また涙があふれてきた。
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