最後の打者の打球を息を詰め、目で追った。一瞬の静けさの後、惜しみない拍手がスタンドを包んだ。夏の甲子園大会で県勢3度目の8強入りを果たした鳥栖商は二十一日、第4試合で常総学院と対戦。「10年前の雪辱を」と全員野球で挑んだが、試合巧者の常総ナインに勝ちを奪い取られた。声をからし声援を送った生徒、保護者ら応援団2100人。「素敵な夏をありがとう」。アルプススタンドのあちこちから感謝の言葉がわき起こった。
鳥栖商ドキュメント◇「夢をありがとう」
10時30分 鳥栖市役所市民ホールに大型テレビを設置。「必勝 鳥栖商」の横断幕も。
12時17分 選手は、宿泊先のホテルを出発。
15時20分 応援団が続々、アルプス席入り口に集結。10年前の試合をみて鳥栖商野球部に入ったという野田剛史さん(25)は「雪辱をはらしてくれると信じています」
15時42分 大粒の雨で第3試合が中断。
16時03分 降り続ける雨。雨宿りしていた応援団から「フレーフレー」の声。永家俊太選手の親せき、森寛さん(53)が「気持ちが途切れないように」。
17時50分 鳥栖商高体育館にプロジェクターを設置。生徒約100人が詰めかけ、うちわを片手に「臨戦態勢」。
17時55分 試合開始。
18時05分 一回裏。初先発の城本貴大投手の姿を母、ひろみさん(46)が祈るように見つめる。
18時17分 荒木直也選手の三塁打で先制。「やっと打ってくれた。この調子」と母由美子さん(38)。鳥栖商高では「きょうも行ける」と大歓声。
18時30分 三回裏、長打で逆転を許す。「常総は試合慣れしとる。憎らしいところにボールの飛ぶ」とジョイフルタウン鳥栖で買い物途中の男性。
19時02分 六回裏無死。重野倫基投手が四球を出す。重野コールが次第に大きくなっていく。
19時28分 鳥栖商高体育館で「まだ追いつける。みんな頑張ってたから、やってくれるはず」と陸上部の江越恵美さん。長崎総体で買った「全国制覇」のタオルを足下に置き、メガホン代わりにペットボトルを打ち鳴らす。
19時37分 九回の攻撃。応援の太鼓を担当してきた野球部2年の北山真さんは「勝利を呼び寄せる」と力いっぱいバチをふるう。
19時41分 アルプス前で打球を捕られ、試合終了。一瞬の静けさの後、スタンドは温かい拍手に包まれた。深々と頭を下げる選手たちに「ありがとう」「よくやった」。
学校では、うなだれるナインの映像を見ながら、泣きじゃくる女子生徒も。3年の吉田真由美さんは「負けたけど強かった。同じクラスの荒木君はすごかった。ご苦労さまと言ってあげたい」と涙をぬぐった。
鳥栖市の街んなかギャラリー。「よく頑張った。2勝するなんて上出来」「4強は次にとっておこう」と拍手が沸いた。
|